Bar | スズキ | スズキ目スズキ科 | 年間通じ供給(秋から冬) |
価格帯:15-20eur/kg |
シタビラメに並ぶフランス料理定番の食材がBarです。魚屋の店頭には一年中必ずあり、養殖も盛んなようです。値段はある程度安い物から高いものまで様々ですが、パリの魚の中ではキロ当たり単価の高い部類に入ります。日本のスズキと食性は似ており、成魚はカニや小魚を食べます。ルアーでの釣りが盛んなことも日本のスズキと同じです。
ところで、フランス語や英語の辞書で日本に生息していない魚の名前をひくと、よく「スズキ科の魚」という訳語に出会います。例えばPercheは「スズキ科の淡水魚」と書かれています。でも、この訳語は正確ではありません。実は、スズキ目は硬骨魚類最大の目で、日本近海の場合半数以上がスズキ目の魚です。それで、辞書では「スズキ科の魚」と訳すのでしょう。しかし、スズキ目のうち、スズキ亜目スズキ科(PERCICHTHYIDAE)に属するのはアラ、オオクチイシナギなどごく僅かで、Percheは別の科(パーチ科)に属します。
もちろん、日本のスズキ(Lateolabrax japonicus)は正真正銘スズキ科の魚です。しかし、フランスのBarはスズキ科の魚ではありません。大西洋のBarは、ハタ科(SERRANIDAE)に属する魚なのです。一部の本では、Barをきちんと「ハタ」と訳しているものもあります。
魚の姿を見れば、それは一目瞭然です。写真を見ても分かるとおり、フランスのスズキは日本のスズキに比べ、圧倒的に口が小さいのです。実は肉質も柔らかく、刺身にしたときの歯ごたえも弱く感じます。最初に見たときには、なぜこの魚をスズキと呼ぶのか分からなかったほどですが、ハタ科の魚ならば種類も多く、このフランスのBarがハタ科の魚だというのも納得できる気がします。
ところで、日本のスズキには、スズキ、ヒラスズキ、タイリクスズキの三種類がいますが、パリのBarにも何種類かありそうです。写真を見ても、右の写真のBarと、左の写真のBarが同種とは思えませんよね。図鑑にも2種類のBarが掲載されていますが、うち一種は体側に黒点が並んでおり、容易に区別できますので、これはまた別の種類と思われます。
ごく稀にイシモチの仲間のOmbrineもBarの名前で販売されていることがあり、要注意です。
Barは別名が多いことでも注意が必要です。特にLoupという呼び名は広く使われており、Barよりも通じやすいことさえあります。但し、ナマズのこともLoupと呼ぶことがありますし、岩礁帯に住むオオカミウオに似たLoup de l'Atlantiqueも単にLoupと呼ぶことがあります。ちなみに日本ではスズキは成長に伴って名前が変わる出世魚で、関東ではセイゴ→フッコ→スズキですが、関西ではフッコの事をハネと呼びます。
Barは新鮮なものは刺身や洗いが美味しいでしょう。養殖物と天然物の両方が流通しており、天然物はかなり高値です。フランス料理なら、パイ包み焼きやレモンソースのムニエルでしょう。日本料理なら香り焼きなどが美味いし、刺身にした後のあらは潮汁にすると良い味を出します。日本のスズキと同じで表面が乾燥しやすいので、塩焼にする場合は、そのままよりアルミホイルなどで包んでホイル焼きにする方が美味しいです。塩釜焼きもいいですね。
なお、秋から冬にかけて、店頭でAiglebarという魚を見ることがあります。この魚は、Barの一種のような名前がついていますが、いしもち(Migre)です。イシモチの項をご覧ください。
仏語名 | 英語名 | 日本名 | 学名 | 分布 | コメント |
Bar | Bass | スズキ | Dicentrarchus labrax | 地中海・北海 | 養殖物、天然物で相当体型が異なる。日本のスズキはLateolabrax japonicusで別科の魚。 |
Bar tacheté | Bass | タイリクスズキ | Dicentrarchus punctatus | 地中海・北海 | Barより小型で、体側に黒点がある。Bar mouchetéとも言う。 |
Loup (Loup de mer) | Bass | (barのこと) | Dicentrarchus labrax | 地中海・北海 | Barの地方名(プロバンス地域)の一つ。かなり広く使われている。 |
セイゴ(スズキの若魚)(99/9/24 久慈川河口)