Dorade タイ スズキ目タイ科 春中心に年中(一部の鯛は季節物)
価格帯:大型ほど単価高

タイといえば日本では魚の王様ですね。味良し姿良しで、様々な料理に使われます。実は鯛の身は分解しにくいイノシン酸を多く含むので、鮮度が落ちにくく、刺身などにしやすい魚なのです。腐ってもタイとよく言いますが、「腐らないからタイ」なのですね。

日本には「タイ」のつく魚がたくさんいます。マダイ、クロダイ、アマダイ、マトウダイ、キンメダイ、イシダイなど、馴染みの魚のほかにも、マツダイ、コショウダイ、イシガキダイなどが良く知られます。最初に書いたように、日本では「タイ」は魚の王様なので、他の魚にも「タイ」の名をつけることで、これにあやかろうとしたのでしょう。

しかし実は、分類上日本近海で捕れるタイ科の魚はマダイ、クロダイ、チダイなど10種類程度で、魚屋の店頭に並ぶのは普通の人には見分けのつかないマダイとチダイだけです。(最近はクロダイを売っている店も増えてきたようですが。)

これに比べてパリの魚屋はタイの種類が多いのに驚きます。タイのうち魚屋で最も一般的に見かけるのはDorade Royaleです。赤くないので、まず日本のクロダイを思い出しますが、全身は黒というより銀色で、えらぶたの上部に黒斑があるので別種だと分かります。種としては日本のヘダイに近い種で、日本のタイと同じく、刺身、塩焼き、吸い物など、どんな料理でも美味しく食べることのできる魚です。店頭では体長20cm位の物から売られていますが、30cm以上のものが脂も乗っていて美味しくなります。

もう一種、魚屋に必ずいるのがDorade Griseです。正式名はGrisetで、稀にこの名で売られていることもあります。外見的にはメジナや海タナゴに近く、見た目が余り新鮮に見えないのでなかなか手が出ませんが、大型のものは脂も乗っており、刺身にして食べるとDorade Royaleと差の無い美味しい魚です。但し、塩焼きなどでは独特の臭みが出るような気がします。OECD分類では、この種をクロダイとしていますが、全く別の種です。

Dorade RoyaleとDorade Griseの二種は、ほぼ年間通して店頭で見かけますが、Dorade Griseは春に大量に店頭に出ていることがあり、この頃が旬なのかもしれません。Dorade Royaleは養殖物が多いようで、年間の供給量も安定しているようです。

日本のタイに良く似た赤いタイの仲間も数多くいます。その多くはPageotというタイの仲間で地中海が漁場や養殖場の中心です。冬を除きほぼ一年中売られていますが、春から夏にかけて多く出回ります。Pageotは、外形は日本のマダイにそっくりなのですが、残念ながら身が柔らかく身割れしやすいので刺身には向きません。煮付けなどはRoyaleより美味しいかもしれません。

このPageot、パリ市内のスーパーなどではDorade Roseの名で売られていることが多いようです。ところが、ベルサイユのマルシェでは、PageotにはきちんとPageotの名札がつけられ、PagreやPageot RoseがDorade Roseという名前で売られています。結局正式な名前としてDorade Roseという名を持つタイはいないようですが、赤いタイを一般にDorade Roseと表記する店が多いので、魚の違いに気をつけましょう。

もう一種、日本のマダイによく似ているのが、日本でも「ヨーロッパマダイ」と呼ばれるPagreです。但し、なかなか魚屋でお目にかかることはできません。外形は日本のマダイに酷似しており、学名も日本のマダイに非常に近く、同科であることが分かります。このPagreと、前述のPageotとの区別も店によって混乱していることが多いので困ります。

ところで、パリにも日本と同様のタイ信仰が少しはあるようで、元々の名前にdoradeがつかない魚でもdoradeの名が付けられていることがあります。例えばSarやMarbreは、やはりDorade sarやDorade marbreの名で売られているし(春、秋の一時期のみ)、赤いフエダイの仲間のVivaneauがDorade Roseの名で売られていることもあります(ほぼ年中)。この魚、市内のスーパーではCarpe rouge(緋鯉?)の名で売られており、直感的にはこの方がお似合いかもしれません。

いずれにせよパリの魚屋の魚名札はいいかげんで、殆ど信用できません。例えば、回遊魚の仲間のシイラ(Coryphène)でさえDorade Coryphèneという名で売られていることがあります。これは、シイラの欧米での別名がDoradoなので、これが訛ってdoradeと混同されているのではないかと想像しています。

ともかく、このページではタイ、フエダイ、フエフキダイの仲間と思われるものは全て「タイの仲間」として掲載しました。分類学上は別の科なのですが、お許し下さい。

なお、タイは一般にはdoradeと書きますが、dauradeでもいいようです。発音は殆ど同じだから、会話する場合にはどっちでも一緒と言う人もおり、そのあたりも、やはり「フランス」らしいですね(笑)。

仏語名 英語名 日本名 学名 分布 コメント
Bogue Bogue (タカベに似る) Boops boops 大西洋・地中海 小アジと混ざって売られていることがある。
Bourgeois Snapper (フエダイに似る) LUTJANIDAE 全世界 Vivaneauの別名
Denté Sea bream (キダイの仲間) Dentex dentex 地中海沿岸 日本のキダイはDentex tumifrons。体型はMarbreに近い。Dentiとも。
Dorade Sea bream タイの一般名称 SPARIDAE 全世界 Dauradeとも書く。Dorade Royaleに使われることもある。
Dorade Grise Black sea bream クロダイ Spondyliosoma cantharus 大西洋・地中海 日本のクロダイもgrisetだが別種(Mylio macrocephalus) 海タナゴに似ている。正式名はGriset。Canthareとも。
Dorade Rose Pageot rose (赤いタイの総称)   地中海 正式名ではない。Pageot,Pagre,Pageot roseなど、多くの「赤いタイ」がこの名で売られている。
Dorade Royale Glit head bream ヘダイ Sparus aurata 東大西洋・地中海 日本のヘダイはSparus sarba。味はマダイに近く、美味
Marbré Steenbras (フエダイに近い) Lithognathus mornyrus 地中海沿岸 沿岸の釣りでは一般的な魚らしい。秋に店頭に出る。
Oblade Saddled seabream (タイの仲間) Oblada melanura 地中海・大西洋・紅海他 パリの魚屋の店頭にはなかなか出ない。
Pageot Pandora (地中海産のタイ) Pagellus erythrinus 地中海 Dorade roseと混乱している。マダイに近い。
Pageot acarné Axillary bream (タイの仲間) Pagellus acarne 大西洋・地中海 Dorade roseの名で売られることも多い。春に店頭に出る。Ravineとも。ジュネーブでは地中海産をBoraboの名で販売
Pageot rose Blackspot sea bream (タイの仲間) Pagellus bogaraveo 地中海 Dorade roseの名で売られることも多い冬から春に店頭に出る
Pagre Red porgy マダイ Pagrus pagrus 地中海 日本でもヨーロッパマダイとして知られている。日本のマダイ(Pagrus major)に酷似している。
Sar White Bream (タイの仲間) Diplodus sagus 地中海 何種類かのSarがいる。フエフキダイの仲間かも。
Saupe Goldline (キュウセンフエダイに似る) Sarpa salpa 地中海 体型はイサキに近く、黄色の縦じまが美しい。秋に店頭に出る。
Vivaneau Snapper (フエダイに似る) LUTJANIDAE 全世界 日本のフエダイとは別種。